その後の食卓

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美しい旅路へ Anathema『The Optimist』

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新世代のプログレッシブロックバンドの2017年新作。
彼らのアルバムを手に取るのは実は初めて。
スティーブン・ウィルソンは元々聴いていたので、Kscopeの中でも最もビッグな彼らはいつか聴かなきゃなあ、と思っていて、漸く今作でありつけた。

イメージから荘厳な音楽を作る集団、みたいな印象だったが、本作はかなり抑え気味。どちらかというと世界観を作ることに重きを置いているようで、静けさと激しさを交互に行き来しているようだ。それは、リードトラックの#6.Springfieldからも分かる。というより個人的な話、初めにこれを聴いて、いたく気に入ってしまったことが本作を手に取るに至った経緯だ。静かに始まりつつ次第に音が集まっていき、最終的に轟音の洪水が押し寄せる。この感じは、誤解を恐れずに言うとポストロックのそれに近く思えた。アルバムを通して聴いても、その感情はさほど変わらない。静かに高揚するこの楽曲は好きだし、前トラックに当たる#5.San Franciscoも美しいピアノの旋律が頭の中を駆け巡らせ、別のところに連れてってくれそうな感覚が、凄く良い。

聴き通すと#1~6、#7~11の前後編の構成だろうか。前編は静かな旋律が段々と盛り上がる楽曲が多く、後編はよりドラマチックな展開のものが目立つ。しっとりしたバラードながら壮大さも見え隠れする#7.Ghostsから、ドラムとアルペジオの絡みが小気味良い#8.Can't Let Goへ世界が疾走する。と、思えば、#9.Close Your Eyesでややジャジーでミドルテンポな展開が気持ちを落ち着かせる。#10.Wildfiresもそんな展開かなあ、と油断していたら唐突に炸裂する感情的なギターサウンドに驚かされる。比喩ではなく、本当に肩が上がってしまった程だが、これがハイライトであることを否が応でも認識される。高らかに歌う男性Vo.と爆発的な音が混ざり合い、これまでの情景が嘘のように赤く染まる。そしてラスト#11.Back To The Startでは一変して包み込むような優しい音が光指す。

雰囲気を保ちつつ様々な情景を思い浮かばせてくれる前半と、多色な展開を楽しませドラマチックに締める後半、というか。
個人的には、静かに盛り上がりつつも浸れる前半の楽曲たちが好ましく、その流れを何度も楽しんでいる。#2.Leaving It Behindも中々疾走感のある楽曲だが、雰囲気は損なわず丁度良い。ジャケットのイメージはどちらかといえば、前半の楽曲からの方が強い。

真夜中のハイウェイを飛ばしながら本作を聴けば、これまでのことに想いを巡らせ行く当てもない地に辿り着くかもしれない。ああ、それは素晴らしい。是非したい。だが、困ったことに、車がない。車が欲しいな。

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