その後の食卓

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tofubeats『FANTACY CLUB』を話す相手はいないけど

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2017年発、tofubeats『FANTACY CLUB』を繰り返し聴いている。

正直、これまでの彼の作品には今一つピンと来ていなかった。

勝手なイメージで恐縮だが、友達が多い陽性サブカル層が持て囃すジャンルだと理解し、遠ざけていたきらいがある。SNSですら人との交流が上手に取れない僕には、彼の音楽や活動が少し眩しすぎた。

 

そんな、一方的なコンプレックスを抱えながら、YouTubeにあげられた#8.WHAT YOU GOTを聴いてしまったのは、気まぐれだった…そう語ることが出来ればご立派だが、ようは気になって仕方なかった。余計なフィルターをかけて嫌いなのよ~などのたまいながらも、放っておけない感じ。要は、お前チラチラ見てたろ、というか。

 

中毒性のあるサウンドと映像だけでも琴線に響いてしまったが、隔てていた壁が壊された瞬間は、彼本人の歌声が届いてからだ。何処か、ふわついた歌詞のはずが、やけに耳に残った。改めて歌詞カードを眺めると、何やかんやでパーティーイエーみたいに、乱暴に片付けられるかもしれないが、そこはかとない寂しさを受け取った。この妙な感じが分からぬまま、気がつくとアルバムを手にしていた。

イントロを経て完全にやられるのには、そう時間がかからない。#2.SHOPPINGMALLのせいで、彼に対して抱えていた偏見が全て取り払われてしまったからだ。

 

「最近好きなアルバムを聴いた とくに話す相手はいない」

 

#8.を初めて耳にしてから引っ掛かっていた物寂しさは、ここで繋がってしまう。

勝手に親近感を持たれて失礼だし、身の程知らずだが、その悩んだり、ぼんやりしたりする様が楽曲を通して浮かび上がり、距離が一気に縮まった。そのまま#3.LONELY NIGHTSでもメランコリーが続き、そうこうしている内に切っ掛けの#8.と再会する。暗い空間でひとり身体を揺すっていたが、気がついたら外に出ていたような錯覚は、初聴の感触とは異なっていた。寂しさがなくなったとは言わない。だが、アルバムを通すと、#8.までの流れは、少しずつ楽しい気分になるまでのレールを引いてもらったようだった。

そのまま楽しいナンバーは続き、#11.YUUKIで改めてクールダウンする。だが、ここに至って感じる寂しさは、初めとは何処が違うような気がした。#12.BABY で優しい多幸感を与えられ、そしてラストナンバー#13.CHANT#2でふりだしに戻されるが、やはりこれも感触は全く違う。

内向的一辺倒な作品であれば、ここまでのめり込めなかっただろう。親さを覚えただけでも上出来なところを、そのまま輪の中に引っ張ってくれたような体験がそこにあった。まさに#12.で綴られる以下の歌詞は、僕が感じたものに他ならない。

 

「ドキドキは今以上のBABY」

 

本作で驚かされたのは、tofubeats本人の言葉の入りやすさだ。

アルバムから好きな曲を並べると、本人が唄うものが上位を締めるのだが、どれも彼本人がマイクを手にすることの強く意義を感じられる。

分からないけど、伝えたいことがある。何処まで受け取れたか、もう少し噛み砕く時間が必要だが、予想以上に向き合ってくれるアーティストなんだって分かった。

 

最後に、余談として。 

本文を書きながら、#1.を流していると、ふと中学時代の友人を思い出した。いや、友人と思っていたのは自分だけだったかもしれない。休日に遊んだことは一度もないし、教室にいるときしか話す仲ではなかったが、一番音楽の趣味が合った。ロックの話も出来たし、ラップの話にも付き合ってくれたことが嬉しく、気に入った音源の貸し借りは、どちらかが合図せずとも勝手に行われた。

彼は何処のグループにも属さない人だった。不良でもなくオタクでもない。それでいて、誰かしらに話しかけられていて。その、リベラルであることを意に介せず佇む姿は僕の憧れだった。

僕の目には彼の孤高は素敵に思えたが、彼の本心は分からない。彼と顔を合わすとする話は音楽だけだったから。恐らく、僕よりもっと沢山の音楽を知っていただろうし、理解があったろうから、話をしながら呆れられていたかもしれない。僕の好きなアルバムは大体、彼も知っていて、だが逆は少なかった。彼が教えてくれる世界はどれも僕を虜にしたが、今も昔も頭が悪い僕は、隔たりを感じていなかった。何処までも遠くにいる彼を、近くにいると勘違いしていた。今はそう思える。

中学を卒業してからは、彼に会うことも、連絡する手段もなくなってしまった。だから、彼が今何をしているか、何を聴いているかは、知る由もない。ただ、同じようにこの作品を手にしていれば、少し嬉しい。#1.はあのときの彼が出会うための作品だから。

 

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