その後の食卓

アニメとかアニソンとかその他 ひとり酒

Ray『Little Trip』

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女性シンガーRayの2016年発表のアルバム。

実質、オリジナルアルバムとしてはラストの位置付けとなる。

 

当アルバムを簡単に表すと、「アーティストとアルバムのコンセプトがガッチリと嵌まった作品」だろうか。

前回までにあった、アルバム構成のチグハグさや、楽曲の彼女とのアンマッチが一切排除され、全く飽きずに聴き通すことが出来る。それは、彼女にとってもキャリアハイになったことに違いなく、だからこそ、間もなくして告げられた卒業宣言には酷く落胆した。

 

少し話が逸れるが、音楽集団I,veとってサマーソングは切っても切れない関係にあるのではなかろうか。いや、過言ですかね、ごめんなさい。だが、彼らの歴代の名作を挙げると、その季節の匂いを漂わすものが多い。

何の話かというと、少し回りくどく言う。

彼らを語る上で欠かせない名曲を彷彿させる作品が発表された際に紡いだアーティストはKOTOKOではなかった。それを受け取った人物がRayそのひとだ、という事実が何を示すか。 

「Rayは夏のアーティストだ」と言うにも、ウィンターソングもやってるだろ、という話だし、季節ものに特化したまま話をすると直ぐにつまづいてしまいそうだから、早々に切り上げるが、可愛い系にしても真面目系にしても、彼女が言葉にする唄には何処か甘酸っぱさがあった。青春の夏の匂い…何処かで忘れたような郷愁が、彼女の歌声から感じられた。

 

彼女が持つ甘酸っぱさを適度に保ち、損なわなかった結果が当アルバムだろう。

アルバム全体の展開も安定している。序盤は盛り上げて、中盤でバラードを挟みつつ、後半は綺麗に締めくくる。

疾走するメロディと彼女の魅力を凝縮した#1.Wonderful Catcherから期体感は高まる。状況が違えば、サークルピットしても気持ち良さそうな前のめりさがある。続いて、ミトさん特有のうきうきするリズム感が気持ちいい#2.初めてガールズ!の流れで、掴みとして十分すぎる。その後も安定した流れを保ちながら、タイアップ曲を挟む。#5.secret armsにしても#7.季節のシャッターにしても、シリーズものの楽曲陣の雰囲気が維持されているのは好感触だ。この点が前作から全くぶれていないことは、高く評価すべきだろう。

可愛い系の楽曲で押し通る前半も良いが、様々な表情を見せながら、じんわりと締める後半は間違いなく本作のハイライトに相応しい。#9.星はしっとりプラス甘酸っぱいの暴力で魅了し、#10.Confessionはこれまで以上のきらびやかさを、電子音に乗せて運んでくれる。エモーショナルなリリックをボーカルで巧く表現して、誉める所しか見つからない。彼女のエモーションの巧みは#11.君に会いに行こうでも止まず、よくぞKOTOKO歌詞をここまで自らの特色で表現できたと感嘆する。そしてラストソング#13.約束trainでは川田まみが待ち構える。I,veの一時代を築いたシンガーたちの猛攻。しかも、川田まみに至っては本人の引退に重なる内容で彼女に渡した。そして、彼女はそれを見事に受け取ってしまう。本作最大の罪はそれなのだが、代弁者となるはずだったものが、Ray本人のメッセージとなってしまうとは、当時は知る由もなかった。これで中途半端にやっていればその程度だったが、上手に昇華しているから手に負えない。余韻を残す素晴らしい楽曲として、残されてしまった。

今後の彼女を期待せざるを得ない作品だった。全て過去形にしてしまうのは惜しい。だが、この作品を後にして、彼女は引退を宣言する。

 

愛憎入り乱れる、といった感情だ。これまでなく素晴らしい作品を残して、彼女は卒業してしまった。本作が発表されて月日も経ち、このまま忘れ去られる作品になるかもしれない。だが、僕は未だに聴いている。

 

ここまでわーわー騒いで何だが、ラストライブには行っていない。そこまで熱心なファンではなかったのだろう、と思うが、僕はこの作品を卒業していない。それが今に至って、勢いで書きながら暫く放置して、もういいや、の気分で投稿した本文の顛末だ。