その後の食卓

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たぶん、ずっと先を見据えている 環ROY『なぎ』

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何か、遠い所に行っちゃったなあ。
ラッパー、環ROYの待望の新作『なぎ』を、初めて聴いた際の感想だ。

彼の存在を知った前作『ラッキー』は、僕の長いこと日本語ラップを聴かなかった空白期間を一瞬で埋めてくれた。
スキルよりも日本語の響きを重視したラップは耳に入りやすく、程よいテンションで落ち着きがあり、噛むほど味が出る感覚に酔わされた。気が付けばずっと聴いていたアルバムで、今でも彼の最高傑作だと思う。

さて、長い期間を経て、満を持しての新作だ。#9.ゆめのあとが、ちょうど一年前くらいに発表されてから、随分と焦らしての本作となる。楽曲からは非常にチルっぽく、前作にあった緩さよりも大人っぽさを先に覚えたが、その落ち着きが芸術性へと傾いた結果が、このアルバムに至った流れだろうか。

#2.Offerは本作と前作をちょうど良い具合に取り持つ感じで、#3.食パンからは浮遊感の漂うトラックに言葉が紡がれ、本作のインテリさを広げる。#4.はらりは春雨のように静かな言葉が降りしきり、その流れに続く#5.On&Onではギターサウンドが目立つファンキーな曲調になるが、何処か飄々としたラップが良い感じにマイルドな味わいへ仕上げる。
落ち着いたような冷静さがどの楽曲からも伝わり、聴いていると緩やかに時間が流れる。そして、本作で最もキャッチーであろう#11.めでたいが、朝を迎えるような晴れやかさを僕らに抱かせてアルバムは終わる。

ラップ、というより言葉という表現を意識的に何度か用いたが、彼の目指したいところはその辺りではなかろうか。どちらも両立させたい意気込みというか、歌詞カードをめくると一見ラップらしからぬ文字が並ぶのに、耳にするとそれはラップに他ならない感覚。その独特のスタイルは前作よりも遥かに研ぎ澄まし、洗練されていることが分かる。

現在の日本語ラップの流行とはかけ離れるかもしれないが、彼の眼差しは恐らくその先を見据えている。僕が初めに抱いた寂しさは、変化への違和感と恐怖が混じったものだろう。だが、彼には何ら関係ないし、評価する舞台は既に別段階にある、という話だ。それは、Hiphopという垣根を越えた、普遍的な賞賛かもしれない。
何にせよ僕は、日本語ラップの可能性を再び教えてくれた彼を、これからも信じたい。

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