その後の食卓

アニメとかアニソンとかその他 ひとり酒

パソコン音楽クラブ『DREAM WALK』

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懐かしさは時に不気味なものに感じられる。

 

パソコン音楽クラブ待望のファーストアルバムとなる本作は、初めて彼らに触れた際に感じた「懐かしさ」の向こう側に到達した。それが前述の一文に表した内容で、過去の情景はノスタルジーと同時にえもいえぬ恐怖感を覚えさせる。VHSから流れるざらついたCM、カセットテープに残された古いラジオ放送、そしてWindows98の起動音…現実味を帯びないが確かにあった嘗ての存在は、記憶よりも鮮明に媒体を通して僕らの感覚に伝わる。パソコン音楽クラブが紡ぐ楽曲はおよそ、それらに触れた際の感情に近い。

古典的なのに近未来を彷彿させ、哀愁も時に漂わせ、合間に挟むボーカル曲が良い。不安感を伴う夢の歩行はやがて本作で最もキャッチーなチューン#6.Inner Blueに辿り着き、目の前に美しい景色を提示してくれる。少なめのネオンライトを背にして広がるは、静かに波打つ夜の海。それは現実なのか夢なのか分からないが、ただただ美しさに心を奪われながら深く沈む。もはや抱いていた恐れすらも心地よく、#8.Beyondでは閉店間近の遊園地のように終わってしまうことの寂しさに満たされる。

 

思うに、ノスタルジーと夜に抱く感情は似通っている。どちらも時に美しさに溢れ、時に掴みがたい恐怖に囚われる。だから僕らはそれらに魅力を感じるのだろう。ミステリアスという甘美な響きに包まれながら、夢を見続ける。この作品は、そういうものに直面した際の感動を呼び起こしてくれる。

 

ところで、ジャケットの夜景に佇むジョナサンは、これらの世界観を全て物語っているようだ。昔から存在して、未だにその姿を保ち続ける様。変わらぬ懐かしさに、ふと思い出す感情の不安の種。

忘れずに生きていたい。