その後の食卓

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小手『雑記』

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2018年にしてバンドファン待望のフルアルバム。緊張感の漂うサウンド、読経やポエトリー等の枠に収まらない歌唱スタイルは、彼らを知らない人からすると異様に聴こえるかもしれない。5~10分ほどの長尺な全7曲は、時にリフレインの中に包まれ、時に激しく空気を震わせ、時に劇的な世界を展開する。長けれど複雑ではなく、だからといってキャッチーなフレーズを綴る隙はない。あるものは息が詰まるまでの『間』で、それは楽曲の中で形を変化させる。緊張、焦燥、高揚、そして和らぎ。第一印象では伝わりづらいが、彼らの楽曲は驚くほど色彩豊かだ。

 

序盤の流れはある意味小手調べ。静かなリフレインにぽつりぽつりとポエトリーが紡がれる#1.生きる2。リフレインと読経、そしてポエトリーの流れから爆発的な叫びが弾ける#2今。アルバム内で最もシンプル且つ激しく、攻撃的な唄がぶつけられる#3.眠い。#3.の流れから、じわじわと間の長いフレーズが繰り返され、張り詰めた緊張感と訪れる終盤への畳みかけが印象的な#4.近付くな。

後半戦は、ポエトリーと暖かみのあるギター・ベースの混ざり合いから、ドラムとの合流で次第に熱量を高める#5やる。たゆたうリフレインに、産み落としてしまった子への愛を唄う#6始まり。そして、16分という最長の尺に前述した色彩全てを表現し切り、眩しさの中に掻き消えてしまう#7.パクリ。這いずりながら向かう先に差し込む光は、聴くものにも心地よい余韻を与えてくれる。

 

表現形態からライブバンドの印象が強いが、媒体が音源であっても彼らの魔力は一切衰えないことを示す一作だろう。

彼らの音は僕らの耳を掴み、引き寄せる。彼らと向き合うことを余儀なくされる。喩え、間の静けさに生活の雑音が混じろうが、それすら溶け込んでしまう。場所は問わないにしても魔力は非常に強力だから、聴くときは独りで挑むことをすすめる。